芥川龍之介『羅生門』は、平安時代の説話集『今昔物語』に収録されている「羅生門登上層見死人盗人語」をアレンジした物語。なぜ芥川は作品の題材に古典を選んだのか?
芥川はエッセイ『今昔物語鑑賞』で、古典に描かれた世俗と悪行への興味を語った。
『源氏物語』はもっとも優美に、
『大鏡』はもっとも簡古に、
『今昔物語』はもっとも野蛮に、
当時の苦しみを描きだした。
美しさに輝いた世界は宮廷の中だけではない。土民だの盗人だの乞食だの。菩薩や天狗や妖怪にも及んでいる。芥川は『今昔物語』から当時の人々の泣き声や笑い声のみならず、軽蔑や憎悪を感じた。
『今昔物語』は野生の美しさに充ち満ちている。
これぞ王朝時代のヒューマン・コメディ。
牛車の往来する朱雀大路は華やかだった。
しかし小路へ曲れば、道ばたの死骸に肉を争う野良犬の群れはあった。 修羅、餓鬼、地獄、畜生等の世界はいつも現世の外にあったのではない。
※芥川龍之介『今昔物語鑑賞』より抜粋・編集