福沢諭吉『学問のすすめ』は日本人の意識を変えた自己啓発書だった【勝間和代さんが解説】

福沢諭吉『学問のすすめ』の初編が発表されたのは明治5(1872)年。

世間では「天は人の上に人を造らず 人の下に人を造らず」と言われているが、世の中そんなに甘くはない。賢い人も愚かな人もいる。貧しい人も金持ちもいる。社会的地位の高い人も低い人もいる。その違いはどうしてできるのか。

当時の「あたりまえ」に一石を投じた福沢諭吉の思想を、経済評論家として活躍中の勝間和代さんが解説します。

本記事では『まんがで読破 学問のすすめ』文庫新装版(Gakken刊)にお寄せいただいた、勝間和代さんによる作品解説を抜粋して紹介します。

福沢諭吉『学問のすすめ』は日本人の意識を変えた〝自己啓発書〟だった

慶應義塾大学の創設者・福沢諭吉
福沢諭吉(1835~1901)

300万部を超えるベストセラー「自己啓発書」

『学問のすすめ』は、明治初期に書かれたものですが、昨今の本のジャンルでいえば、読者の意識や行動を変え、成長をうながす「自己啓発書」です。

福沢諭吉は中津藩(現大分県)の下級武士として生まれました。学問好きではあったけれども、当時の学問の中心は朱子学で、彼には物足りず、長崎まで出向いてオランダからもたらされる蘭学を学んだりしていました。

長らく鎖国をしていた日本は幕末になって突然、開国を強いられます。福沢諭吉は、幕府が海外のことを知るために派遣した咸臨丸に乗り、欧米の様子をつぶさに見て、「日本は遅れている。これからは英語で学ばなくては」と愕然とするのです。

人は生まれながらに貴賤貧富の別なし。ただ、良く学ぶ者は貴人となり富人となり、無学なる者は貧人となり下人となる

本書で述べられる「自由」「独立」「平等」といった概念は、それまでの日本にはまったくなかったものでした。福沢諭吉が海外で観察し、考え、一つひとつ「発見」していったのです。それらをまとめ、大衆に伝えたという功績は非常に大きいものだったと思います。

人は皆平等であり自由である。自由という権利を持つことは、大きな責任も与えられている。自由とは、他者を頼らず自立、独立すること。自立するために、生活に役立つ実学を学びなさいー。

こう述べた『学問のすすめ』は300万部以上売れるベストセラーになりました。当時の日本の人口が約3000万人だったことを思うと、驚くべき数字です。

江戸時代末期の日本人は、身分制度、家父長制度に苦しんでいました。明治維新となり、急激に時代が変わるなかで、「これこそが道だ」と目が覚めたような気がしたことでしょう。それぞれが能力を身につけて自立し、自由に生きることを説く。このリベラルな思想は、当時の日本の人々に熱狂的に受け入れられました。まさに「パラダイム転換」というべき大変化が起きたのです。

書いていることは「自助」のすすめ

福沢諭吉は、なぜ、非常に進歩的な考えを持ち、これだけのことを成し遂げることができたのでしょうか。

下級武士の子で、早くに父親を失い、当時としてはリベラルな考えを持つ母親に育てられたということが大きかったでしょう。家を継ぐことはできない次男だったので、家業に縛られず自由に行動することができた。武士階級であるので、学問をする環境はあった。既得権益がそれほど大きくないので、枠にとらわれない大胆な行動をとることができたのではないでしょうか。

「門閥制度は親の仇でござる」福沢諭吉の名言

貧乏と下級武士と次男、そして幕末。激動の時代に、イノベーションを起こすには、なかなか良いポジションにいたわけです。この時代に活躍した人に下級武士の出身が多いのも、偶然ではないでしょう。

『学問のすすめ』に書かれていることは、決して生易しい話ではありません。行政などの用語で、「自助・公助・共助」などという言葉がありますが、福沢諭吉が言っているのは「自助」です。本書は「自助のすすめ」といってもいい、完全な能力主義によって貫かれています。個人の能力は、個人差も環境の違いもあります。そこには厳しさもあります。

現代も明治時代のような大きなパラダイム変換が起きている

幕末の開国によって日本は太平の眠りを覚まされましたが、現代の世の中でこれにあたるのが、インターネットだと思います。インターネットは大きく世界を変えてしまいました。あらゆる情報にアクセスできるようになりました。

もちろん情報は玉石混交ですし、偽情報もあり、常に判断を強いられますが、世界中いつでも瞬時につながることができるようになりました。

いま世界を席巻している顔ぶれをみると、GAFAをはじめ、IT、テクノロジーの会社です。いくら慣れ親しんだものが良い、昔の価値観を守りたいと言っても、これらの新しい波が海外から押し寄せて、まさに、力ずくで開国させられた明治時代のような状態になっているのです。

福沢諭吉『学問のすすめ』が現代に遺した種

『学問のすすめ』の執筆背景を現代の視点からとらえ直した、勝間和代さんによる解説の一部をご紹介しました。

伝統的な日本の会社は『藩』のまま」であり、勝間さんは現代の身分制度と言える学歴制度や、女性が活躍できない悪環境から抜けだすための「小さな革命」を提案します。

この続きはぜひ『まんがで読破 学問のすすめ』文庫新装版(Gakken刊)でお読みください。まんが本編と解説で、楽しみながら「学ぶこと」のやる気がわきます。

解説者紹介:勝間和代(かつまかずよ)
経済評論家、中央大学ビジネススクール客員教授。早稲田大学ファイナンスMBA、慶応大学商学部卒業。当時最年少の19歳で会計士補の資格を取得、大学在学中から監査法人に勤務。アーサー・アンダーセン、マッキンゼー、JPモルガンを経て独立。『無理なく続けられる年収10倍アップ勉強法』『勝間和代のインディペンデントな生き方実践ガイド』など著書多数。

提供:(株)Gakken O18事業部

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