芥川龍之介『羅生門』は、平安時代の説話集『今昔物語』に収録されている「羅生門登上層見死人盗人語」をアレンジした物語。なぜ芥川は作品の題材に古典を選んだのか?
芥川はエッセイ『今昔物語鑑賞』で、古典に描かれた世俗と悪行への興味を語った。
『源氏物語』はもっとも優美に、
『大鏡』はもっとも簡古に、
『今昔物語』はもっとも野蛮に、
当時の苦しみを描きだした。
美しさに輝いた世界は宮廷の中だけではない。土民だの盗人だの乞食だの。菩薩や天狗や妖怪にも及んでいる。芥川は『今昔物語』から当時の人々の泣き声や笑い声のみならず、軽蔑や憎悪を感じた。
『今昔物語』は野生の美しさに充ち満ちている。
これぞ王朝時代のヒューマン・コメディ。
牛車の往来する朱雀大路は華やかだった。
しかし小路へ曲れば、道ばたの死骸に肉を争う野良犬の群れはあった。 修羅、餓鬼、地獄、畜生等の世界はいつも現世の外にあったのではない。
※芥川龍之介『今昔物語鑑賞』より抜粋・編集

下人
【羅生門】屋敷を解雇された不幸な男。猪熊のお婆と出会い人生を模索する。

猪熊のお婆
【羅生門】羅生門に捨てられた死人の髪の毛を盗んで売ることを生業とする。

沙金
【偸盗】猪熊のお婆の娘。二十数名を従える盗賊団のボス。美しく狡猾。

太郎
【偸盗】盗賊団のメンバー。恋敵の弟とともに沙金に翻弄されている。

検非違使
【藪の中】京都の治安維持を所管する官吏。武弘殺人事件の犯人を追う。

真砂
【藪の中】都を彷徨うところを発見され、夫の武弘を殺したと自供する。

芥川龍之介(1892〜1927)
東京都出身。東京帝大在学中、同人誌に発表した『鼻』が夏目漱石に絶賛される。卒業後は教職のかたわら初の短編集『羅生門』を刊行。その後、教職を辞して創作に専念する。『歯車』『河童』等、多くの短編小説を残した。『続西方の人』脱稿後、薬物自殺。享年35才。
関連作品
『或阿呆の一生』芥川龍之介
※人生は地獄よりも地獄的・自殺直前の独白
『百人一首』藤原定家
※王朝時代の優美華美・歌人100人の想い
バラエティ・アートワークス
「まんがで読破」シリーズの制作を目的に設立された著作会社。その他『歴史秘話ヒストリア』『タイムスクープハンター』漫画版および第5期TVドラマ脚本協力(NHK/ピクス)等。2013年解散。現在は後身のTeamバンミカスがシリーズを継続。