『若きウェルテルの悩み』は、18世紀の文豪・ゲーテの青春小説。「ウェルテル効果」「ウェルテル熱」と呼ばれる現象で、多くの若者に影響を与えました。題名は知っているけれど難しそうなイメージもあり、なかなか手が出ないという人が多いかもしれません。
この記事では、『若きウェルテルの悩み』のあらすじと作品の魅力、作者・ゲーテが物語を執筆した背景などをわかりやすく紹介します。
ゲーテ『若きウェルテルの悩み』のあらすじ
主人公・ウェルテルは、純真で繊細な青年。『若きウェルテルの悩み』のストーリーは、傷心旅行に出たウェルテルが、親友のウィルヘルムに送った手紙を中心に展開していきます。
ウェルテルからの手紙
ウィルヘルムは、奔放に生きるウェルテルのよき理解者でした。ウェルテルは彼にさまざまな気持ちを打ち明けます。15歳の頃の失恋話もそのひとつです。
ウェルテルは幼馴染の女性に恋をしました。彼女と一緒にいると自分が自分以上の存在になれた、ウェルテルはそう回想します。しかし、彼女は若くして病気で亡くなってしまったのです。ウェルテルは、魂の半分がこの世から消えてなくなったと感じます。
彼女を失った悲しみや他人とうまく付き合えない苦しさから、ウェルテルは町を飛び出しました。ウェルテルは旅先から、ウィルヘルムへ手紙を送ります。
運命の人シャルロッテ
ウェルテルは、ワールハイムという自然に囲まれた村を訪れていました。ウェルテルはその村でさまざまな人と出会います。
料亭の気さくな女将さん、絵のモチーフとなるかわいい兄弟、町の役人をしている老人、雇い主である未亡人に恋をする作男、そしてなくしていた魂の片割れ…。
ウェルテルは、舞踏会で運命の人・シャルロッテと出会います。
シャルロッテの姿や声、ふるまいや思慮深い見識に、ウェルテルは心を奪われました。ウェルテルはこのうえない幸福を感じます。シャルロッテもまた、ウェルテルに好意をもっているように感じられました。
なぜ僕じゃなくて彼なんだ?
しかし、シャルロッテにはアルベルトという許嫁がいました。
旅に出ていたアルベルトは、シャルロッテのもとへ帰ってきます。ウェルテルから見ても、アルベルトは「尊敬を拒むことはできない」とても立派な男性でした。
落ち着きがあって職もあり、シャルロッテのこともよく知っている。ウェルテルは自分との差に愕然とします。「こうなることはわかっていたのに、彼女から離れられなかった…」と、ウェルテルは後悔すら感じました。
失恋…嫉妬…そして殺意
ウェルテルは少しずつ、大好きな絵や読書も手につかなくなってきました。どう考えてもシャルロッテは他人のもの、わかってはいるが胸が苦しい…。ウェルテルは、自分のなかに渦巻いている感情を処理しきれなくなります。
そんなとき、大きな事件が起きます。未亡人に恋をしていた作男が、新しく雇われた男を殺してしまったのです。「彼女には誰も手をつけさせるわけにはいかない」と作男は語ります。
ウェルテルは作男の行動に強く影響され、自分も“やること”を決めました。シャルロッテを永遠に自分のものにするため、ウェルテルは銃を手にします。
ウェルテルの殺意はどこへむかうのか?
親友ウィルヘルムが受け取った最後の手紙は、ウェルテルの遺書でした。ウェルテルは思い悩んだすえ、誰も傷つけずに済むように、自分がこの舞台から去ることを選んだのです。
『若きウェルテルの悩み』作者・ゲーテの執筆背景
『若きウェルテルの悩み』を読み解くために、ゲーテの恋愛や執筆スタイルについて把握しておきましょう。
ゲーテの恋愛
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテは、1749年にドイツのフランクフルトで生まれた詩人・小説家・劇作家です。文学はもちろん、科学や哲学、政治の分野でも活躍しました。『ファウスト』や『色彩論』などの作品を残し、今もなお世界中の読者に影響を与えています。
『若きウェルテルの悩み』は、ゲーテが25歳のときに刊行されました。この物語は完全なフィクションではなく、ゲーテの実体験をもとに書かれています。
ゲーテは、法学を勉強するために訪れた町で舞踏会に参加します。その舞踏会で、シャルロッテのモデルになった女性と出会い、ウェルテルと同様、恋に落ちました。
しかし、彼女には婚約者がいました。ゲーテは想いを伝えることができず、自殺を考えるほどに精神を弱らせます。そこへ、昔の友人が拳銃自殺をしたという報せが届き、これらの経験をもとに『若きウェルテルの悩み』を創作したのです。
古典主義とロマン主義
もともとゲーテは古典主義の作家で、ロマン主義を批判していました。古典主義は、理性を尊重し均整のとれた表現を理想としました。一方のロマン主義は、古典主義に反抗し、感情や個性などを自由に表現することを重視しました。
ゲーテは古典主義を重んじていたのですが、『若きウェルテルの悩み』のなかでは、主人公の激しい気持ちや悩み、葛藤が自由に表現されており、ロマン主義の作品ともいえます。
執筆当時20代だったゲーテは自分を抑えきれず、感情を爆発させて創作したのかもしれません。この「ウェルテル熱」は海を越え、島崎藤村や尾崎紅葉など日本の作家たちまで熱狂させました。
自殺は弱者の行為なのか?
ウェルテルは最終的に自ら命を絶ってしまいますが、自殺は弱者の行為なのでしょうか?
物語のなかには、ウェルテルが自殺について思いをめぐらせる場面があります。自殺は弱さや愚かさによるものではない、良し悪しで簡単に白黒つけられるものでもない、とウェルテルは考えます。
メンタルが強いと評される人でも、思いがけない失敗や孤独に囚われたとき、平静を保てなくなり、最期のときを望むこともあるのではないか?
それが不合理な死でも、ときには人の救いになることもあるのではないか?
ウェルテルは自殺を否定せず、世の中は正論で解決することばかりではないと考えました。
ウェルテル効果と自殺報道
『若きウェルテルの悩み』は多くの読者に影響を与え、ウェルテルと同じようなファッションが流行したり、彼を真似して自殺する若者が急増しました。
その後もメディアによる自殺報道があると、後追い自殺が起こったため、この現象を「ウェルテル効果」と呼ぶようになりました。とくに著名人や人気者が自ら命を絶ったときの影響は大きく、ただ後を追うだけではなく、その方法まで真似るという特徴があります。
現代においても、ウェルテル効果のような現象が発生するケースもあるため、自殺報道は慎重に行われるようになってきました。WHO(世界保健機関)は、不適切な自殺報道により、子どもや若者の自殺を誘発する可能性があるとして「自殺報道ガイドライン」を定めています。
具体的には、自殺報道を過度に繰り返さないこと、センセーショナルな見出しを使用しないこと、支援についての正しい情報を提供することなど、メディアに一定の配慮を求めています。
誰もが経験する若さゆえの執着を描いた『若きウェルテルの悩み』
今回は『若きウェルテルの悩み』のあらすじや、作者・ゲーテがこの物語を執筆した背景などを紹介しました。ウェルテルのような若さゆえの苦悩は、誰もが経験するはずです。
ゲーテは次のような名言も残しています。
人間が自分に与えることのできる
最も驚くべき教養は、
誰も自分のことなど求めてはいない、
という確信である。
さまざまな解釈ができますが、無理に周囲の期待に応えようとしない、そもそも自分は何者でもない、あきらめることで道は開ける、という意味にもとれるでしょう。
ゲーテは、自分自身や他者への執着から、若者たちを救いたかったのかもしれません。
青春時代をひきずったままの、未熟な大人たちであふれる現代社会。若者は青春期をどうやって乗り越え、どうすれば成熟した大人になれるのか?
文豪・ゲーテからの人間成長のヒント。
原作には難解な部分も多いため、まずは読みやすい漫画がおすすめです。
ぜひ、まんがで読破『若きウェルテルの悩み』を参考にしてみてください。