ルソーの社会契約論をわかりやすく解説|多数決と民主主義の理想

ルソーの『社会契約論』は、王様に服従することが「あたりまえ」だった当時のヨーロッパに大きな影響を与えました。

なかでも18世紀のフランス革命では、多くの活動家がルソーの思想に基礎をおき、現代の民主主義社会を考えるうえでも基本となるものです。

自由・平等とは何か?理想的な政治とは?
多数決はほんとうに民主的なのか?

今回は、ルソー『社会契約論』のポイントをわかりやすく解説します。

ルソーの社会契約論が説く不平等な社会

ジャン=ジャック・ルソー
ジャン=ジャック・ルソー

『社会契約論』では家族について語られます。「これだけが自然なもの」であるとするルソーは、国家の仕組みは不平等な社会状態と考えていました。

まずはルソーの考える社会契約・市民社会の成りたちから見ていきましょう。

社会契約とは何か?

ルソー 社会契約論 憐憫

もともと人間は孤立した「個」です。社会が成立する以前は、みんなが自由な自然状態にありました。そこには善人も悪人も道徳も義務もありません。

それは体の強いものだけが生き残る、弱肉強食の世界でもあります。

しかし、人間には憐れみの感情があります。厳しい環境で生存するために協力し、集団生活をはじめるのです。

人間は自己保存のために自然状態から社会状態へ移り、共存するための約束をかわします。それが社会契約です。

家族と国家のちがい

最初の社会は「家族」です。親子の間には、生存するための絆があります。子どもの成長によってその絆は解消され、親子はともに孤立した「個」に戻ります。

人間は、理性を行使できる年齢になれば「自分自身の主人」となるのです。

その後の家族関係は、お互いの合意によってのみ維持されるとルソーは考えました。

家族と国家のちがいは、支配者が支配される者を愛するかどうかにあります。

親は子を愛しますが、国家が人民を愛することはありません。国家はただ人民を支配し、不平等な社会状態を固定化するのです。

ルソーは、その不平等の原因は私有財産にあると言います。

私有財産と価値評価

ルソー 社会契約論 私有財産

自然状態においては、すべてのものが誰のものでもなく、誰もが平等でした。

集団生活のなかで農耕がはじまり、人が家や土地などの私有財産をもつようになると、その質や量の価値評価が生まれます。

価値評価とは自分と他人を比べること。
これが不平等のはじまりです。

他人をうらやむ気持ちは、競争につながります。そうして力の強い者が富者となり、そうでない者は貧者になりました。

ルソー 力と権利

しかし、ルソーは力を権利とは認めません。
力による権利とは、他人を自分に服従させることです。その権利は、より強い者が現れると、その相手にそっくり受けつがれることになります。

力がなくなると消滅する権利は、そもそも不自然なのです。

私有財産の出現は貧富の差だけでなく、不自然な権利を「法」によって正当化する国家を成立させました。

「社会と法」と隷属

ルソー 社会契約論 専制政治

私有財産が、持つ者と持たざる者の格差を生みます。その不満から暴動などが起きることを恐れた富者は社会と法をつくります。

秩序を守ると見せかけて、既得権益を守るための国家を旗揚げするのです。

それは富者にはさらに力を、貧者には拘束を与えるものでした。これが隷属を生んだのです。持つ者は持たざる者を使役し、さらに富を増やしました。

ルソー 社会契約論 絶対王政

もともと人間は、自己保存のために社会契約を結ぶはずです。しかしこの国家は、人民から奪うばかりで何も与えません。

「人間は自由に生まれつきながら、至るところで鉄鎖につながれている」

ルソーは「自由を放棄することは、人間としての資格を放棄すること」として、国家への服従は人間にとって不自然なものとしました。

市民的自由|ルソー社会契約論の自由と平等

ルソーは、隷属のない自然的自由を理想としましたが、原始的な自然状態に戻ることは勧めていません。

社会状態におかれたままで、人間が自由であるためにはどうすればいいのか?

家族を社会モデルとした「市民的自由」をルソーは目指しました。

ルソー 社会契約論 市民的自由

すべての人民が、すべての権利を共同体に譲渡することで、家族のような関係を国家レベルで実現するのです。

自由な主体の結びつきによる社会契約。

権利を譲渡する相手は、王様ではありません。政府でもありません。みんなが「個人の自由」を「みんな」に与えあうのです。

自己保存のために自然的自由を失った人間の、市民的自由への飛躍。それには一般意志による政治が鍵となります。

一般意志|ルソー社会契約論の政治形態

ルソーの思想は、ホッブズやロックによる啓蒙思想の流れを汲むものです。いずれも世界中の政治のあり方に影響をおよぼしました。

市民的自由を実現するために、ルソーは人民に一般意志への服従を求めます。

一般意志とは何か?

一般意志とは、共同体に属するすべての人民の総意のことです。

・一般意志はつねに正しい
・一般意志はつねに公共の利益を目指す

個人の利益だけを求める特殊意志と、その総和である全体意志とはまったくの別モノです。

特殊意志と全体意志

特殊意志と全体意志

特殊意志は、個人の立場によって異なります。
人間には公私さまざまな思惑がありますが、公共の利益よりも自分の利益が優先です。

全体意志とは、特殊意志の集まりです。
同じような特殊意志をもつ人々が徒党を組むことで、利害の対立が生まれます。

社会のルールや法律を決めるときは、おもに間接民主制多数決が用いられますが、それが一般意志を遠ざけることにもなるのです。

間接民主制と多数決

多数決と間接民主制

間接民主制は、立法権を議会に預けて法律をつくる制度です。

代議士や政党は選挙による多数決で選ばれますが、多数決は少数意見を排除します。一部の利益のために、みんなの共通利益を見失うのです。

ルソーはひとつの利害でまとまった「部分的結社」を否定しました。

得票数を競うのではなく、満場一致の公益をみつけるために直接民主制を提唱したのです。

一般意志と直接民主制

一般意志と直接民主制

利害が対立していても、そのなかに一致するものがあるはずです。

一般意志と全体意志の決定的なちがいは、他者への憐れみの感情があるかないか。

おたがいの意見を熟慮すれば、対立する意見が増えれば増えるほど、みんなに共通する利益がはっきりします。満場一致ゆえに一般意志はつねに正しいのです。

直接民主制とは、すべての人民が「理性」によって立法に参加する政治形態です。

全体意志との見極めは難しいものですが、そうして導きだされる一般意志によって築かれる共同体が、ルソーの理想でした。

ルソーの社会契約論と啓蒙思想

社会契約説は、17世紀の哲学者トマス・ホッブズによって提唱されました。

ホッブズは、自然状態にある人間たちは無秩序になり「万人の万人による闘争」が起きると考えました。そこで、強力な統治者の主権のもとで人々が理性に従う協定を「社会契約」と呼んだのです。

啓蒙主義思想 ホッブズとロック
トマス・ホッブズとジョン・ロック

ジョン・ロックはホッブズの考えを継承しつつも、人間はもともと理性的であると考えました。それでも人は、他人の権利を侵害することがあります。

ロックは、国民が議会に権利を預ける「間接民主制」によって国家を統治させるとしました。さらに、その契約が果たされないときには革命権も認めています。

啓蒙思想 社会契約説の比較

これらを継承しつつも、ルソーは異論を唱えます。ホッブズは絶対王政を認めることになり、ロックの社会契約は一般意志が見逃されるからです。

ルソーは自然状態を人間の理想ととらえ、市民的自由は「憐れみの感情」で成りたつとしました。

ルソーの社会契約とは、すべての人民(立法者)がひとつになり、政府(行政者)を一般意志に従わせる協定のことです。

この考えがフランス革命に影響を与えます。

ルソーの社会契約論とフランス革命

フランス革命は、1789年のバスティーユ牢獄襲撃に端を発する歴史上の大事件です。当時のヨーロッパには啓蒙思想の影響が強く表れていました。

『社会契約論』とフランス革命、後世への影響について見ていきましょう。

革命の指導者・ロベスピエールへの影響

ロベスピエールとルソー
マクシミリアン・ロベスピエールとルソー

フランス革命を主導したジャコバン派のロベスピエールは、学生時代に晩年のルソーと面会し、深い感銘を受けたと言われています。

フランスに限らず、当時のヨーロッパの国々の多くは君主制を敷いていました。

ルソーの理想は人民主権による共和制国家です。王政を批判し、ロックと同様に革命権を認めたルソーの『社会契約論』は、フランス革命を思想面で支えました。

自由な主体による平等な社会。
他者への憐れみの感情。

フランス革命では、自由・平等・友愛が標語として掲げられ、フランス国民にとって大きな意味を持ち続けます。

フランス人権宣言に見るルソーの思想

フランス革命 社会契約論

人民主権を徹底したルソーの影響は、フランス革命の初期に掲げられた人権宣言(人間と市民の権利の宣言)にも見てとれます。

そこには人間の自由・権利の平等・国民主権、などの基本原則が打ちだされました。
この宣言は、新しい市民社会による絶対王政の崩壊を決定づけたのです。

ルソーの影響は、ヨーロッパに限ったものではありません。『社会契約論』は明治15年には日本でも翻訳され、自由民権運動の思想的基盤のひとつとなりました。

しかし、良い話ばかりではありません。
ロベスピエールはルソーが理想とした国家を目指しましたが、最終的には政敵をギロチンで処刑する恐怖政治におちいります。

ルソーが目指した社会契約論の理想と現実

ルソーが理想とした一般意志による政治は、すべての人々に「理性」を強要することでもあります。

それが本当の自由と言えるのか?

理性をこじらせたロベスピエール…
平等をお題目にした共産主義国の独裁…
都合よく解釈すれば、全体主義や監視社会なども正当化できてしまいます。

人口が激増した現代において、すべての国民が「直接民主制」に参加することも現実的ではありません。民主制は国の規模によって向き不向きがあるとルソー自身が認めています。

社会契約論 書影

ルソーの理想は「ただの理想」と批判されながら、20世紀以降も多くの学者たちが発展させてきました。これからの民主主義として、ネット社会の集合知から一般意志をとらえることもありえます。

現在でも『社会契約論』は、民主主義社会を考えるうえでの基本です。

ルソーに興味を持った方に、まずは漫画をおすすめします。『社会契約論』にいたる思考実験を「ある国」の革命物語にしました。

まんがで読破『社会契約論』をぜひ参考にしてください。

社会契約論 まんがで読破

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