船橋屋の「元祖くず餅」は芥川龍之介のメモリアルスイーツ!

船橋屋は、東京・江東区亀戸にある老舗の甘味処です。
今回は、芥川龍之介のメモリアルスイーツ、船橋屋の「元祖くず餅」をご紹介します。

芥川龍之介の大好物・船橋屋の「元祖くず餅」

亀戸天神社

亀戸の名所といえば、学問の神様・菅原道真を祀る亀戸天神。

亀戸天神のご近所に本店をかまえる船橋屋。創業は1805年、参拝客にオリジナルのくず餅を売りだしました。江戸時代からの味を守る老舗です。

このくず餅にハマった文豪のひとりが、芥川龍之介でした。

僕等は「天神様」の外へ出た後「船橋屋」の葛(くず)餅を食う相談をした(中略)
僕の中学時代には葛餅も一盆(ひとぼん)三銭だった。僕は僕の友だちと一しょに江東梅園(こうとうばいえん)などへ遠足に行った帰りに度たびこの葛餅を食ったものである。

『本所両国』芥川龍之介

芥川龍之介といえば『羅生門』をはじめ、短編小説の表現を極めた大正文壇のスターです。

痩せぎすの体型に、ニヒルなくわえタバコ。食欲とは縁遠い芸術至上主義者のイメージですが、じつはかなりの甘党。

芥川の出身校は両国小学校(当時は江東尋常小学校)です。学生のころからの大好物が、近所にあった船橋屋のくず餅でした。

芥川龍之介は、美食家だった谷崎潤一郎と創作について激しく論争して「飽食」を嫌っていましたが、美味しいスイーツの魅力には勝てなかったようです。

船橋屋は「関東式」くず餅の元祖

船橋屋 亀戸天神前本店

船橋屋(亀戸天神前本店)の外観。
撮影はセミの鳴き声がにぎやかな8月、青々とした藤棚のある涼しげな入り口です。

くず餅の起源には諸説ありますが、船橋屋はその元祖といわれるお店です。

「くずもち」は2種類に大別されます。
・葛(くず)粉を原料にした関西式の「葛餅」
・小麦粉を原料にした関東式の「くず餅」

関西式の葛餅の色が半透明、関東式のくず餅が白いのは、その原材料によるものです。
それでは、なぜ葛粉を使っていない関東式を「くずもち」と呼ぶのか?

当時の関東式は、小麦の生産地だった下総国葛飾郡(現在の千葉・船橋)から「葛」の文字をとって葛餅と呼んでいたのです。その後、関西式の「葛餅」と区別するために「くず餅(久寿餅)」と表記したといわれています。

お江戸スイーツの横綱

船橋屋 入り口

伝統の味を守りつづける老舗のくず餅。
明治初頭にだされた名物番付「大江戸風流くらべ」では、船橋屋のくず餅が、お江戸スイーツの「横綱」に選ばれていたそうです。

船橋屋の「元祖くず餅」は、小麦粉のでんぷんを450日かけて熟成させ、蒸しあげた発酵食品。

消費期限は2日間。セミの寿命より短い…。
防腐剤などの添加物を一切使わずに、自然の味わいにこだわった逸品です。

老舗・船橋屋の定番メニューを堪能!

船橋屋の喫茶スペースで、定番メニューをいただきました。「元祖くずもち」と「あんみつ」の2品です。

船橋屋の看板メニュー「元祖くず餅」

船橋屋 元祖くず餅

関東式の乳白色。角形に切られたくず餅に、たっぷりの黒蜜と、きな粉をふりかけたルックス。

モッチリとシットリ感の絶妙なバランス。きな粉の香ばしさと黒蜜のシャクっとした食感。
濃厚な黒蜜がしつこそうに見えますが上品な甘さです。発酵による酸味のおかげで、まったく飽きません。

芥川龍之介『芋粥』の主人公は、大鍋たっぷりの芋粥を目の前にして食欲をなくしますが、このくず餅ならバケツ一杯でも食べられます。

スイーツ横綱の称号も納得の、本格的なくず餅の美味しさに感動しました。

船橋屋の人気メニュー「あんみつ」

船橋屋 元祖くず餅入りあんみつ

こちらも人気の一品。
自家製こしあん・色とりどりの求肥・みずみずしい寒天・黒蜜、夏にぴったりの和スイーツです。

元祖くず餅も入ってます。いろいろな味を楽しめる「あんみつ」もおすすめです。

船橋屋 元祖くず餅 吉川英治

喫茶スペースに飾られている看板。この書は『坂の上の雲』『宮本武蔵』などで有名な文豪・吉川英治によるものです。

店内はほぼ満席状態でした。文豪や著名人だけでなく、庶民にも愛され続ける老舗の味。

白玉あんみつをシェアするご夫婦、季節のかき氷を味わう家族連れ、散歩がてらにひとりで楽しむ人、その人気ぶりがうかがえます。

天神詣でのひと休みに|船橋屋の元祖くず餅

菅原道真 亀戸天神社

学問の神様・菅原道真が祀られている亀戸天神は、合格祈願のために多くの受験生たちがお参りにきます。

天神詣でのひと休みに、船橋屋のくず餅はいかがでしょうか。東京帝国大学にも進学した大正文壇きっての秀才、芥川龍之介にあやかって…。

船橋屋 亀戸天神前本店
船橋屋のホームページ
東京都江東区亀戸3-2-14
JR・東京メトロ【錦糸町駅】徒歩10分
JR・東武鉄道【亀戸駅】徒歩11分

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